FASは、コンサルの中でもM&A、企業価値評価、事業再生など財務の論点に深く入る仕事です。戦略コンサルやITコンサルと似た言葉で語られますが、見られる経験は少し違います。名前の印象だけで高年収の専門職と見るより、どの案件でどの数字を見る仕事なのかを先に押さえる方が現実的です。この記事では、FASとコンサルの違い、代表的な仕事内容、SIer・社内SE・PMO経験からどう近づけるか、応募前に確認したいポイントを整理します。
- FASとは何か、コンサルとどう違うか
- FASで扱うM&A、企業価値評価、事業再生などの仕事
- 戦略コンサル、ITコンサル、IBDとの違い
- FAS転職で見られやすい経験とスキル
- SIer・PMO・ITコンサル経験からFASへ近づく見方
FASとは何か
FASは、Financial Advisory Servicesの略として使われることが多い言葉です。
直訳すると財務アドバイザリーサービスです。企業のM&A、企業価値評価、財務デューデリジェンス、事業再生、PMI、フォレンジックなど、財務や会計に近い経営課題を支援する仕事を指します。
2026年7月7日時点でKPMG FAS公式サイトを確認すると、M&A/PMI、事業再生・事業変革、不正調査・予防などの領域が紹介されています。コンコードやムービン、外資就活などの解説でも、FASは財務・M&A・企業価値評価・事業再生を軸に説明されています。
FASの定義には揺れがある
FASという言葉は、会社や記事によって少し意味が変わります。
ある文脈では、Big4系の財務アドバイザリー会社そのものを指します。別の文脈では、M&Aや企業価値評価を扱う部門、または財務アドバイザリー職を広く指します。
さらに、戦略部門、再生部門、フォレンジック、トランザクション支援、PMI支援まで含めるかも会社によって違います。求人票を見るときは、「FAS」と書かれているかだけでなく、どの法人のどのサービスラインなのかを確認してください。
コンサルと混同されやすい理由
FASも広い意味ではコンサルティングの一種です。
クライアント企業の課題を整理し、分析し、意思決定を支える点では、戦略コンサルや業務コンサルと近い部分があります。資料を作り、役員や事業責任者と話し、複数の専門家を巻き込みながら進める点も似ています。
ただし、FASは財務・会計・M&Aに寄ります。市場調査や事業戦略だけでなく、対象会社の財務数値、収益性、運転資本、負債、事業計画、企業価値、買収後の統合リスクなどを見ます。
「コンサルっぽい仕事」ではありますが、扱う数字と責任の重さがかなり違う。ここを分けて理解した方が、転職後のギャップを減らしやすいです。
FASとコンサルの違い
FASとコンサルの違いは、支援テーマと分析の深さで見ると分かりやすいです。
コンサル全般は、戦略、業務改革、IT、組織、人事、リスク、DXなど広いテーマを扱います。FASはその中でも、M&A、企業価値、財務リスク、再生、会計論点に寄った専門領域です。
| 領域 | 主なテーマ | 見られやすい経験 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| FAS | M&A、企業価値評価、財務DD、再生、PMI、フォレンジック | 会計、財務分析、M&A、経営企画、事業計画、データ分析 | 数字から事業の状態を読むのが好きな人 |
| 戦略・業務コンサル | 成長戦略、業務改革、新規事業、組織改革 | 市場分析、業務設計、事業企画、顧客折衝、論点整理 | 曖昧な課題を構造化するのが好きな人 |
| ITコンサル・PMO | システム構想、要件定義、導入、PMO、DX | SIer、社内SE、PMO、IT企画、業務部門調整 | ITと業務をつなぐ仕事が好きな人 |
| IBD | M&Aアドバイザリー、資金調達、資本市場 | 金融、投資銀行、M&A実務、財務モデリング | ディールの成立や資金調達に強く関わりたい人 |
戦略・業務コンサルとの違い
戦略・業務コンサルは、事業の方向性、競争優位、業務プロセス、組織の動かし方などを広く扱います。
FASでも事業戦略やPMIに触れることはあります。ただ、FASではその議論が財務数値や取引の実行可能性と強く結びつきます。買収対象の利益は本当に続くのか。運転資本はどれだけ必要か。のれんや減損リスクはどう見るか。再生計画は金融機関やスポンサーが納得できる水準か。
同じ「事業を見る」でも、FASはお金の流れ、会計上の論点、取引条件に近い場所で考える仕事です。
ITコンサル・PMOとの違い
ITコンサルやPMOは、システム導入、業務要件、プロジェクト管理、関係者調整を扱うことが多いです。
FASにもPMI、M&A後の統合、カーブアウト、データ分析、デジタルフォレンジックのようにITやPMO経験が活きる場面があります。特に、買収後のシステム統合、分離対応、データ移行、業務プロセス統合では、ITと業務の経験が役立ちます。
一方で、FASの中心は財務・会計・取引論点です。SIerやPMO経験だけでそのまま通るというより、財務や事業計画を読む力を補いながら、ITと業務の橋渡し経験をどう使うかが見られます。
IBDとの違い
IBDは、投資銀行部門としてM&Aアドバイザリーや資金調達に深く関わる仕事です。
FASもM&Aに関わりますが、財務デューデリジェンス、バリュエーション、PMI、再生、フォレンジックなど、取引前後の調査・分析・実行支援に寄ることが多いです。IBDがディール全体の成立や資金調達に近いなら、FASは対象会社の中身を深く見て、意思決定の材料を作る色が強いと考えると分かりやすいです。
もちろん会社や部門によって重なりはあります。応募時は職種名ではなく、案件フェーズと成果物を見ましょう。
FASの主な仕事内容
FASの仕事は、M&Aだけではありません。
ただ、M&Aを中心に周辺領域が広がっていると考えると理解しやすいです。買う前に調べる、値段を考える、買った後に統合する、うまくいかない会社を立て直す、不正や会計上の問題を調べる。こうした場面でFASが関わります。
M&A・財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスは、買収対象会社の財務状態を調べる仕事です。
売上や利益が一時的なものではないか。運転資本に問題はないか。簿外債務や訴訟、会計処理のリスクはないか。将来計画の前提は強すぎないか。こうした論点を、財務諸表、管理会計データ、契約、ヒアリングをもとに見ていきます。
数字を集めるだけではありません。買い手が意思決定できるように、リスク、調整事項、追加確認点を整理する仕事です。
バリュエーション・モデリング
バリュエーションは、企業価値や事業価値を考える仕事です。
DCF、類似会社比較、類似取引比較などの手法が知られていますが、実務では数式を知っているだけでは足りません。事業計画の前提、成長率、利益率、投資、運転資本、リスクをどう見るかが問われます。
モデリングも同じです。Excelが速いだけではなく、どの前提を変えると価値がどう動くのか、意思決定者がどこを見ればよいのかを説明できる必要があります。
PMI・カーブアウト
PMIは、買収後の統合支援です。
M&Aは契約が成立して終わりではありません。組織、業務、会計、人事、IT、販売、管理体制をどう統合するかで、買収後の価値が変わります。FASでは、財務や経営管理の観点からPMIに入ることがあります。
カーブアウトは、事業の切り出しや分離です。買収や事業売却では、どのシステム、契約、人員、データを切り出すのかを整理する必要があります。ここはITコンサルやPMO経験者が接続しやすい領域です。
事業再生・リストラクチャリング
事業再生では、業績が悪化した企業の立て直しを支援します。
資金繰り、収益改善、事業計画、金融機関との調整、スポンサー探索、コスト削減、組織再編など、かなり現実的なテーマを扱います。きれいな戦略だけではなく、どの事業を残し、どの支出を抑え、誰と合意するかまで踏み込みます。
数字に強いだけでなく、人や組織の痛みを扱う仕事でもあります。
フォレンジック
フォレンジックは、不正調査、危機対応、コンプライアンス、デジタル証跡の調査などを扱う領域です。
会計不正、情報漏えい、内部不正、海外拠点の問題など、通常の業務改善とは違う緊張感があります。資料、メール、会計データ、システムログなどを確認し、事実関係を整理します。
IT経験者やセキュリティ経験者は、デジタルフォレンジックやデータ分析の側面で接点を作れる場合があります。
FAS転職で見られやすい経験
FAS転職で見られる経験は、部門によって変わります。
会計士や金融出身者だけが対象というわけではありません。ただ、財務・会計・M&Aに近い経験があるほど説明しやすいのは事実です。未経験から狙う場合は、自分の経験をFASの仕事にどう接続できるかを整理しておきたいです。
会計・財務・金融の経験
会計、監査、経理、財務、金融機関、M&A仲介、事業会社の投資部門などの経験は、FASと近いです。
財務諸表を読む、収益性を分析する、資金繰りを見る、事業計画を作る、投資判断に関わる。こうした経験は、財務デューデリジェンス、バリュエーション、再生支援で使いやすい材料になります。
職務経歴書では、資格名や所属部署だけで終わらせず、どの数字を見て、どの判断に関わったのかまで書きます。
経営企画・事業企画の経験
経営企画や事業企画の経験も、FASに近い場面があります。
中期経営計画、予算策定、事業計画、KPI設計、投資判断、子会社管理、M&A検討、事業撤退、アライアンスなどに関わっていれば、FASで扱う論点と重なります。
ただし、企画だけをしていたのか、数値計画や意思決定に関わったのかで見られ方は変わります。売上、利益、投資、回収、リスクをどう見たかを言語化しておくと伝わりやすいです。
コンサル経験
戦略、業務、IT、リスク、PMOなどのコンサル経験者は、プロジェクトワーク、資料作成、クライアント対応、論点整理の経験を出せます。
FAS寄りに見せるなら、M&A、PMI、事業再生、業績改善、経営管理、会計、データ分析に近い案件を優先して棚卸しします。単に「コンサル経験があります」ではなく、「財務や取引に近い論点で何を整理したか」を出す方がよいです。
SIer・PMO・IT経験
SIer、社内SE、PMO、ITコンサル経験者は、FASから遠いように見えるかもしれません。
ただ、PMI、カーブアウト、ITデューデリジェンス、デジタルフォレンジック、経営管理システム、データ分析、ERP刷新、グループ会社統合などでは、IT経験が使えることがあります。
たとえば、次のように翻訳できます。
| 前職経験 | FAS寄りに見せる観点 |
|---|---|
| システム統合 | M&A後のIT統合、データ移行、業務プロセス統合 |
| ERP導入 | 経営管理、会計、販売、購買、在庫の業務理解 |
| PMO | PMIやカーブアウトでの会議体、課題管理、リスク管理 |
| データ分析 | 財務・業務データの異常値確認、KPI分析、レポーティング |
| セキュリティ | フォレンジック、内部不正、ログ調査、アクセス管理 |
一方で、技術経験だけでは足りないこともあります。財務諸表、M&Aの流れ、会計用語、事業計画の読み方は補う必要があります。
FASに向いている人、慎重に見たい人
FASは、華やかなM&Aのイメージだけで見るとずれます。
実際には、細かい数字を確認し、前提を疑い、資料を何度も直し、クライアントや専門家と合意形成する仕事です。短期間で深く調べる場面も多く、忙しさの山もあります。
向いている人
FASに向いているのは、次のような人です。
- 数字の裏にある事業の動きを考えるのが好き
- 財務諸表や事業計画を読むことに抵抗がない
- M&A、再生、PMIなどの変化が大きい場面に関心がある
- 細かい確認作業と大きな意思決定の両方を扱いたい
- 不確実な情報を集めて、判断材料にまとめるのが苦ではない
FASは、分析だけでも営業だけでもありません。数字、事業、関係者、期限が同時に動きます。そこに面白さを感じられる人は合いやすいです。
慎重に見たい人
反対に、次のような人は慎重に見た方がよいです。
- 財務・会計の勉強を避けたい
- 細かい数字の確認が強いストレスになる
- 短納期の案件や急な依頼を避けたい
- M&Aや再生の緊張感より、長期の安定運用を好む
- 年収やブランドだけでFASを見ている
向かない可能性があるからといって、すぐに選択肢から外す必要はありません。FASの中にも、財務DD、PMI、再生、フォレンジック、IT寄り支援など幅があります。自分の経験と近い入口を探すことが先です。
求人票と面接で確認したいこと
FASの求人票は、職種名だけでは分かりにくいことがあります。
「アドバイザリー」「トランザクション」「M&A」「コーポレートファイナンス」「再生」「フォレンジック」と書かれていても、実際に求められる経験は違います。応募前には、次の観点で分解してください。
| 見る項目 | 確認したいこと | 面接で聞くなら |
|---|---|---|
| 法人・部門 | FAS会社なのか、コンサル会社内のFAS部門なのか | 入社後の所属サービスラインはどこですか |
| 案件フェーズ | デューデリジェンス、バリュエーション、PMI、再生、フォレンジックのどれが中心か | 入社後半年で多い案件テーマは何ですか |
| 成果物 | レポート、モデル、事業計画、課題管理表、統合計画など | 若手・中途入社者が主に作る成果物は何ですか |
| 必須経験 | 会計、金融、M&A、コンサル、IT、PMOのどれを重視するか | 現職経験のどこが評価対象になりやすいですか |
| 働き方 | 繁忙期、短納期、海外案件、出張、複数案件の有無 | 繁忙期はどのタイミングで発生しやすいですか |
法人名とサービスラインを確認する
Big4系では、監査法人、税理士法人、コンサルティング会社、FAS会社が同じグループ内にあります。
たとえば、デロイトトーマツ、PwC、KPMG、EYという名前だけで判断すると、応募先の実態を誤りやすいです。FASを狙うなら、法人名、部門名、担当サービスを確認します。
「M&Aに関わりたい」と思っていても、実際にはIT統合、財務DD、バリュエーション、PMI、再生、フォレンジックで仕事が大きく変わります。
どの経験が足りないかを聞く
面接やカジュアル面談では、自分の経験がFASにどう見えるかを確認してよいです。
聞き方としては、「現職のPMO経験を活かす場合、入社前に補うべき財務・会計の知識はどのあたりですか」「ITデューデリジェンスやPMI寄りの案件では、どのような経験が評価されますか」のように、応募ポジションに合わせて具体化します。
ぼんやり「未経験でも大丈夫ですか」と聞くより、足りないものが見えやすくなります。
職務経歴書と面接での伝え方
FASを狙う職務経歴書では、経験を「作業名」ではなく「判断材料」に変える必要があります。
たとえば、データ集計、資料作成、会議運営、システム導入、業務改善は、そのまま書くとFASとの距離が見えにくいです。何の意思決定に使われたのか、どの数字やリスクを整理したのかまで書くと、つながりが見えてきます。
弱く見えやすい書き方
次のような書き方は、経験があっても伝わりにくいです。
| 弱く見えやすい書き方 | FAS寄りの書き方 |
|---|---|
| データ集計を担当 | 売上・原価・在庫データを集計し、収益性の低い商材と要因を整理 |
| 会議運営を担当 | PMI関連会議で課題、担当者、期限、意思決定事項を整理 |
| システム導入を担当 | 販売・会計データの連携要件を整理し、月次管理の精度向上を支援 |
| 経営資料を作成 | 事業計画の前提、KPI、リスクを整理し、投資判断資料に反映 |
| ベンダー調整を担当 | 移行リスクと代替案を整理し、経営管理システム刷新の意思決定を支援 |
FASは、数字を見て終わりではありません。意思決定者が何を判断できるようになったのかを示すと、経験の見え方が変わります。
面接ではFASを選ぶ理由を具体化する
面接では、「M&Aに興味があります」だけだと弱くなります。
なぜ戦略コンサルではなくFASなのか。なぜITコンサルではなく財務アドバイザリーに寄せたいのか。なぜIBDではなく、調査・分析・統合支援に関わりたいのか。ここを自分の経験とつなげて話す必要があります。
SIerやPMO経験者なら、「M&A後の統合やカーブアウトで、業務とITの両方を整理する仕事に関心がある」「プロジェクト管理だけでなく、財務・事業計画を読んで意思決定に近づきたい」のように、今の経験から一段ずらして話すと自然です。
応募前にやる準備
FASが気になったら、いきなり求人に大量応募するより、先に3つだけ整理してください。
1. FASの中で近い領域を決める
FASの中でも、財務DD、バリュエーション、PMI、再生、フォレンジック、IT寄り支援では求められる経験が変わります。
会計・財務が強い人は財務DDやバリュエーションへ近づきやすいかもしれません。PMOやIT経験が強い人は、PMI、カーブアウト、ITデューデリジェンス、フォレンジック周辺から見る方が現実的な場合があります。
2. 財務・会計の不足を補う
FASを狙うなら、最低限、財務諸表、PL、BS、CF、運転資本、企業価値、M&Aの流れは押さえておきたいです。
会計士レベルの専門性をすぐに身につける必要はありません。ただ、求人票や面接で出てくる言葉を毎回調べながら読む状態だと、準備不足に見えます。
3. 職務経歴書をFAS向けに直す
最後に、職務経歴書をFAS向けに直します。
ポイントは、経験を財務・事業・リスク・統合の言葉へ置き換えることです。IT経験者ならシステム名よりも、どの業務データを扱ったか。PMO経験者なら会議運営よりも、どの意思決定を前に進めたか。事業企画経験者なら企画名よりも、どの投資やKPIを見たかを出します。
FASは、肩書きだけで近づく仕事ではありません。自分の経験を、M&Aや財務アドバイザリーの文脈で説明できるかが最初の準備になります。

